取引先の担当者が代わったとき、こちらから確認しておくこと
「4月から私が担当します」というメールが届く。前任者へは10年近く納品してきた。名刺交換をして、当たり障りのない挨拶を返し、次の受注も普通に入る。問題が出るのは半年後です。急ぎの依頼を前日夕方に電話で受ける運用が通じなくなり、「そんな話は聞いていない」と言われる。
相手の担当交代で失われるのは、関係の親しさよりも、前任者との間だけで成り立っていた運用条件です。契約書に書いていない取り決めほど、交代の瞬間に消えます。
消えるのは、書面に残っていない三種類
引き継ぎ資料に載るのは、取引金額、品目、納期といった基本条件です。実際に納品を回してきた条件は、その外側にあります。
| 消えやすいもの | 具体例 | 消えたときに起きること |
|---|---|---|
| 例外時の運用 | 急ぎの依頼を電話で受ける、少量なら分納する、繁忙期は納期を2日延ばす | 例外が「特別対応」として毎回稟議へ回り、対応が遅れる |
| 連絡の経路 | 仕様は技術課へ直接、金額は購買へ、日程は現場責任者へ | すべてが新担当者へ集まり、回答が止まる |
| 過去の判断理由 | 3年前に別材質へ変えた理由、値上げを1回見送った経緯 | 同じ検討が最初からやり直され、他社比較が始まる |
この三つは、相手の社内資料に残っていないことが多く、こちらの記録の方が詳しい場合すらあります。交代の連絡は、その差を埋めてよい数少ない機会です。
この図で決めること続けない判断が出ても、条件が書面に残る分だけ次が軽くなる。
前提の引き継ぎメモを、こちらから渡す
新しい担当者は、前任者の判断を社内で説明できません。説明できる材料をこちらから出すと、相手の負担が減り、確認も早く返ってきます。
取引前提メモ(2026年8月時点) 取引の範囲: 月2回納品、標準品A・Bと特注品C。特注品Cは図面支給。 納期の基準: 標準品は受注から5営業日、特注品Cは12営業日。年末年始と8月中旬は+3営業日。 例外の運用: 前日16時までの電話依頼は翌日出荷で対応。月2回まで。 連絡先の分担: 仕様と図面は技術課、単価と支払は購買課、納品日程は当社営業へ。 直近の変更: 2023年10月に材質をSUS304へ変更。理由は洗浄工程での腐食。 未確認: 2026年度の年間予定数量。前任者とは口頭で年6,000個の想定。
このメモの目的は、確認の押し付けではありません。「前任者と決めていたこの運用は、続けてよいか」を相手が社内で判断できる状態にすることです。続けない判断が出ても、条件が明文化される分だけ次の納品が楽になります。
最初の連絡では、変更点を一つだけ聞く
引き継ぎメモを送るときに、質問を並べると返答が止まります。相手が着任直後に答えられるのは、自分の裁量で決まる範囲だけです。
ご就任のご連絡をいただき、ありがとうございます。次回納品(8月21日予定)の前に、運用の前提を一枚にまとめてお送りします。内容の正誤をご確認いただく必要はありません。この中で、御社側で変わりそうな点が一つでもあれば、8月14日までに教えていただけますか。特に、前日16時までの電話依頼を翌日出荷で受ける運用は、御社の受入体制によっては見直しが必要かもしれません。
「何かあればご連絡ください」で終える文面は、相手が何を確認すべきか分からないため返信されません。こちらから見直し候補を一つ示すと、相手はその一点に答えるだけで済みます。
交代から3か月で、条件を書面へ戻す
着任直後に決まらなかった条件は、3か月ほどで相手の社内にも運用実績が溜まります。ここで一度、口頭のまま残っている項目を書面へ移します。
| 経過 | こちらの動き | 判断の材料 |
|---|---|---|
| 交代直後 | 前提メモを渡し、見直し候補を一つ聞く | 相手の裁量範囲が分かる |
| 1か月後 | 実際の発注が前提どおりか照合する | 例外依頼が来たか、経路どおり来たか |
| 3か月後 | 変わった条件を注文書や覚書へ反映してもらう | 継続する運用と、止まった運用が分かれる |
3か月経っても例外依頼が一度も来ない場合、その運用は相手側で必要なくなった可能性があります。こちらの体制を維持し続ける理由がないなら、社内の待機工数を戻す判断もここで出せます。
相手の担当交代を機に取引条件そのものを見直すなら、価格改定を相談する前に、取引先へ渡す材料で協議の材料の並べ方を確認できます。自社側の担当が代わる場合は営業担当が交代するときに渡す顧客と案件の情報、顧客ごとの経緯を残す形は技術営業が顧客ごとに残すメモの項目を併せて見てください。次の連絡日を取引の節目に置く方法は既存顧客のフォロー時期を決めるにあります。
交代の連絡が来ている取引先を1社選んでください。前任者と決めていた例外の運用を三つ書き出したとき、そのうち一つでも相手の社内資料に残っていないなら、次の納品より先に一枚を渡す段階です。