社長しか分からない仕事は、止まる場面から引き継ぐ
社長の頭の中に、顧客ごとの事情、値決め、仕入先との関係、例外対応が入っている。「全部をマニュアルにしよう」と始めると、書く範囲が広すぎて止まる。担当者は今日も、同じ見積を持って社長の返事を待つ。
社長の仕事を丸ごと移す必要はありません。最初に外すのは、一週間に何度も同じ質問で止まる場面です。質問を採り、担当者が進めてよい範囲、確認する相手、社長へ戻す条件を決めます。
一週間、「社長待ち」だけを記録する
業務一覧を作る前に、社長へ質問が来た瞬間を一行で残します。
| 来た質問 | 担当者が持っていた情報 | 社長が見た条件 | 出した判断 |
|---|---|---|---|
| この納期で受けてよいか | 顧客希望日、在庫 | 工事枠、他案件、分納可否 | 分納を条件に受ける |
| 値引きできるか | 見積額、希望値 | 粗利、継続取引、追加範囲 | 範囲を減らして再提示 |
同じ種類が三回出た質問を、最初の引き継ぎ候補にします。一年に一度の重要判断より、毎週繰り返す小さな待ちを外す方が、担当者と社長の時間を先に戻せます。
この図で決めること社長へ戻す条件が明確なら、引き継ぎは責任放棄にならない。
判断メモは、答えより条件を書く
「この顧客は値引き可」と残すと、次回の条件が変わっても同じ判断が使われます。代わりに、担当者が進める条件と戻す条件を分けます。
標準価格・標準納期・既存の支払条件内なら担当者が提示する。 値引き、短納期、契約変更、安全への影響が一つでもある場合は、見積前に営業責任者へ戻す。 戻すときは、顧客希望、通常条件、差分、期限、考えられる選択肢を添える。
このメモなら、社長が不在でも標準案件は進みます。例外を勝手に判断させることもありません。
引き継ぎの完成を「質問ゼロ」にしない
新しい例外は必ず出ます。担当者が一度も社長へ聞かない状態を目標にすると、危険な判断を抱え込むか、隠れて確認するようになります。
完成の基準は三つです。
- 標準条件なら、担当者が資料を見て進められる。
- 例外なら、どの条件を添えて誰へ戻すか分かる。
- 社長の新しい判断が、次回の基準へ追加される。
営業から技術へ戻す場面は五行の技術相談票、担当交代で約束を渡す場面は顧客別の引き継ぎカードが使えます。顧客管理そのものが個人メモに閉じている場合は、担当と次回日を共有する表から先に直します。
明日から一週間、マニュアルを書かずに「社長へ来た質問」を採ってください。最も繰り返した一問へ、進めてよい条件と戻す条件を二行ずつ書く。それが最初の引き継ぎです。