工場見学の受け入れを、案内で終わらせない
「一度、工場を見せていただけませんか」と言われる。現場を片付け、通路を確保し、当日は工程順に回って説明します。相手は熱心にメモを取り、最後に「勉強になりました」と帰っていく。数週間経っても、見積の依頼は来ません。
見学が商談へつながらないのは、案内の質ではありません。相手が何を確かめに来たのかを聞かないまま、こちらの工程順に見せているからです。
依頼を受けた時点で、来る理由を三つに切り分ける
同じ「見学したい」でも、来る理由は違います。理由が違えば、見せる場所も変わります。
| 来る理由 | 相手が確かめたいこと | 当日の重心 |
|---|---|---|
| 発注先として選ぶため | 生産能力、品質の管理方法、納期を守る仕組み、緊急時の対応 | 数字と記録。設備の台数より、判定と記録の運用を見せる |
| 既存取引の課題を解くため | 自社の注文がどこで時間を要しているか、改善の余地はどこか | 該当工程だけを深く。全工程を一周しない |
| 情報収集や勉強のため | 業界の一般的なやり方、設備の傾向 | 短時間で概要。商談の材料としては数えない |
依頼のメールや電話で理由が分からない場合は、日程を返す前に一つだけ聞きます。「当日、特にご覧になりたい工程はありますか」と聞くと、多くの場合は理由が返ってきます。
この図で決めること質問が出ない見学を、次の見込みとして数えない。
見せる順番は、相手の判断順に合わせる
工程順の案内は、こちらにとって説明しやすい順番です。相手は判断の順番で見ています。
見学の組み立て(発注先の選定で来社・製造業の購買と品質保証の2名) 冒頭10分: 会議室で、現在の生産品目、月産能力、稼働体制を数字で示す。 前半20分: 受入検査と材料の管理。相手の関心が品質保証にあるため、工程の入口から見せる。 中盤25分: 加工と組立。同種品の実際の流れを、注文から出荷までの日数で説明する。 後半15分: 出荷前検査と記録の保管。検査記録の様式と保管年数を実物で見せる。 最後10分: 会議室で質問を受ける。この時間を確保するため、通路の説明は短くする。 見せない場所: 他社向けの図面と製品。事前に養生する。 当日の記録役: 案内役とは別に1名。相手の質問をそのまま書き留める。
案内役が説明しながら記録も取るのは無理があります。別の人が質問を書き留めると、当日の関心が後から分かります。
質問の記録が、次の提案の材料になる
見学後に商談が進むかどうかは、相手が何を質問したかで見えます。
| 質問の種類 | 読み取れること | 次の一手 |
|---|---|---|
| 納期や生産能力の確認が多い | 発注量や時期が具体的に見えている | 想定数量での見積条件を先に出す |
| 記録や検査の方法を細かく聞く | 社内で品質保証の承認が必要 | 検査記録の様式見本を渡す |
| 設備の型式や年式を聞く | 他社と比較している | 同種品の実績と対応可能な範囲を書面で出す |
| 質問がほとんど出ない | 判断が先の段階、または対象外 | 商談として数えず、次の接点だけ決める |
質問が出ない見学を「反応が良かった」と記録しないことが要点です。次の見込みとして数えると、営業の見通しが実態から離れます。
見学の翌日に、相手の社内で使える形を送る
その場の説明は、相手の社内では再現できません。翌日に渡すのは、感謝の言葉よりも判断の材料です。
昨日はご来社ありがとうございました。ご質問いただいた点について、社内で確認した内容をまとめました。1点目、月産能力についてです。同種品の実績で月8,000個、繁忙期は7,000個が上限です。2点目、検査記録の保管についてです。出荷検査記録は5年間保管し、ロット番号から遡って提出できます。様式の見本を添付します。3点目、緊急対応についてです。特急対応は月2件まで、通常納期の半分でお受けした実績があります。ご社内でのご検討に必要な資料が他にありましたら、8月12日までにお知らせください。
相手が社内で説明できる材料の作り方は相手の社内検討で使える資料、現場の写真を営業側で使う整理は施工・納入写真を営業資料へ使うにあります。逆に自社が監査を受ける立場になった場合の是正の残し方はサプライヤ品質監査の指摘を改善へつなげるを見てください。
次に予定している見学を一つ選んでください。相手が確かめに来る点を一文で書けないなら、日程を返す前にその一つを聞く段階です。