値引きを求められたとき、受ける条件と断る条件を決める
商談の終わりに「金額だけ、もう少し何とかなりませんか」と言われる。断ると失注しそうで、その場で「5%なら」と返してしまう。社内で原価を見直すと、想定していた利益がほとんど残っていません。次の見積では、最初から5%引いた数字を出すことになります。
値引き要請への返事が苦しくなるのは、金額だけを単独で動かすからです。金額は、数量、納期、仕様、支払条件と組み合わさって決まっています。
要請の裏側にある理由を、四つに分ける
同じ「高い」でも、相手の社内で起きていることは違います。理由が違えば、交換できる条件も変わります。
| 相手の状況 | 見分ける質問 | 交換できる条件 |
|---|---|---|
| 予算枠が足りない | 「ご予算の上限はいくらでしょうか」 | 仕様を落とす、分割発注にする、次期予算へ一部を回す |
| 他社見積が安い | 「比較されている条件は同じ範囲でしょうか」 | 範囲の違いを示す。同条件なら数量や期間で調整する |
| 社内稟議を通したい | 「稟議で何が論点になりそうですか」 | 端数の調整、初回限りの条件、根拠資料の追加 |
| 慣習として言っている | 「今回の金額で進めた場合、着手はいつになりますか」 | 交換せず、納期や支払条件の確定で応える |
四つ目は、値引きが目的ではない場合です。ここで安易に下げると、次回以降も同じ要請が前提になります。
この図で決めること下げ幅だけを決めると、その幅まで一直線に下がる。
交換条件を、返事の前に一枚へ書く
その場で答えないための道具は、原価表ではありません。何と引き換えなら下げられるかを、先に決めておく一枚です。
交換条件メモ(案件 2026-0805 / 標準品B 300個) 提示中: 単価620円、受注後10営業日、月末締め翌月末払い。 下げられる幅: 単価590円まで(数量450個以上・同一仕様)。580円は加工外注費を割る。 交換候補1: 数量を450個へ増やす → 単価590円。 交換候補2: 納期を15営業日へ延ばす → 単価605円。段取りをまとめられる。 交換候補3: 支払を月末締め翌月20日払いへ → 単価610円。 交換しない条件: 材質変更、検査項目の削減、図面外の追加対応。 断る場合の代案: 今回は現行単価、次回発注分から数量条件を適用。
「下げられる幅」だけを決めておくと、その幅まで一直線に下がります。交換候補を三つ書いておくと、金額以外で相手の希望に応えられる場合が見えます。
断るときは、次の取引の条件を先に置く
断る返事が難しいのは、断ることそのものより、その後の関係が見えないからです。次に何が起きれば条件が変わるかを、同じ文面に入れます。
ご相談いただいた単価の件、社内で確認しました。今回のご発注条件(300個、10営業日)では、提示している620円が現行の下限です。値引きの形ではありませんが、条件の組み合わせでご希望に近づける案が二つあります。一つは、数量を450個へまとめていただければ590円でお受けできます。もう一つは、納期を15営業日へ延ばしていただければ605円です。どちらも仕様と検査項目は現行のままです。次回のご発注時期が9月中旬とうかがっていますので、今回は現行条件で進め、9月分から数量条件を適用する形でもご相談できます。
「厳しいです」「企業努力の限界です」といった表現は、相手の社内で使えません。数量450個、納期15営業日といった具体的な条件が入っていれば、相手はそのまま上長へ相談できます。
受けた場合は、次回の基準線を書面へ残す
一度下げた単価は、記録しておかないと次回の出発点になります。受ける判断をしたときこそ、条件を書き残します。
- 適用範囲を書く。今回の注文番号、数量、納期に限る旨を注文請書や覚書へ入れる
- 復帰条件を書く。数量が基準を下回った場合、次回から現行単価へ戻ることを明記する
- 社内へ共有する。営業担当以外が受注処理をしても、条件付きだと分かる場所に置く
値上げや条件見直しを自社から切り出す段階なら、価格改定を相談する前に、取引先へ渡す材料で協議の順番を確認できます。値引き要請の後に返事が止まった場合は未決定事項から再連絡を作る方法、条件が合わずに見送りとなった案件は失注理由を次の提案へ戻す記録で、価格以外の要因と分けて残してください。
いま値引きを求められている案件を1件選んでください。数量、納期、仕様、支払条件の四つで交換候補を書けないなら、返事より先にその一枚を作る段階です。